料理家の神田川俊朗氏がいつも言っています。 「ちょっと工夫でこの旨さ」 正に食べ物は、ちょっとしたことで旨くも不味くもなります。
私はどうせ食べるなら、少しでも旨く食べたいと思います。 そのことが、周囲の人たちに、「食べ物に神経質で、小うるさい人」といった印象を与えるようです。 でも、中には私の言うことに興味を示したり、賛同してくれる人もいます。 そんな時は本当に嬉しく思います。
私が困ったなと思うタイプの方というのは、何かにつけてしたり顔で「こうだから不味い、ああだから美味しくない」と、ケチをつけることでいかにも食通であるがごとく振る舞う人です。
逆に好感が持てるタイプの方というのは、旨いものに出会ったとき、「これは何かな、どうして味付けしているのかな」などと興味を示し、後で実際に料理するとき試してみるような人です。
私は高価な材料を使い料理するよりも、どこにでもある安い材料を工夫して作ることを好ましく思います。 その意味において、料理に工夫できることは台所を預かる者の大切な要件です。
普通私たちは1日に3回食事をしますが、その内朝と夜は家でするとすれば、週に14回、月に56回、年672回、さらに80歳まで生きるとすれば一生に53,760回もあるのです。 どうせなら、不味いものを我慢して食べるより、旨いと思って楽しく食べたいものです。 ただお腹さえ一杯になればいいというものではないと思います。
私が普段「ちょっと工夫」していることを、思いつくまま次にあげてみます。
◆焼き肉 焼き肉をするときには、強火で裏表をさっと焼き、肉汁が出てしまわないようにすること。 肉は焼き過ぎて固くなってはダメです。 とにかく「強火でさっさ」が旨く食べるための基本です。
◆煮物 霙(みぞれ)が降るような季節になると、さといもや大根、コンニャク、人参、油揚げなどを材料にした煮物が旨くなります。 私にとってはおふくろの味です。
さて、この煮物ですが、旨く作るためポイントは、なるべく大きな鍋で一度にたくさん煮ることです。 それとじっくり時間をかけることです。 何回も煮直す程、材料同士の味が馴染んで旨くなります。
でも、今の時代は家族が少人数の上、主婦がパートなどに出たりしますから、こんな悠長なことはやってはいられないのかも知れません。
◆鍋物 もう一つ、寒くなりますと鍋物も旨くなります。 寒い時期に鍋物が好まれるのは暖まることもありますが、材料として使う魚に脂が乗り旨くなるからです。 それと鍋物には欠かせない白菜も甘みを持ち、薬味に使う大根もみずみずしく旨くなります。
よく収穫の秋などといいますが、これら鍋物の材料に限っては収穫の初冬といった方がよいのかも知れません。 霰(あられ)や霙(みぞれ)が落ちてくるようになると、いよいよ鍋物は旨くなるぞ。
さて、ここでひと工夫、鍋物には必ずといっていいほど蒲鉾を入れますが、蒲鉾は煮すぎては不味くなります。 熱が通ればOKです。 その目安は、沈んでいたのがフワリと浮かんできた時です。
同じように海老を入れる時も煮すぎないことです。 エビは鍋に入れれば赤くなってきますから、よく分かります。 赤くなって直ぐでは中が生ですから、一呼吸置くことです。 蒲鉾でもエビでもこんなにプリプリで甘くて旨かったのかと驚きます。
◆旨味調味料 旨味調味料(化学調味料)はむやみに使わないこと。 大体こういうものは習慣性のものといえるようです。 ですから、余所(よそ)で旨味調味料をたっぷり使った煮物などが出されると、何となく分かります。
でも、私たちは知らない内に旨味調味料を口にしています。 いわゆるインスタント食品のスープや出汁は、旨味調味料そのものといっていいでしょう。 それから、醤油にもたっぷり入っています。 ですから、避けられないようになってしまっています。
私たちは、昭和30年代以前の貧しい時代の方が、自然で本当に旨いものを食べていたのかも知れません。
◆残った刺身 刺身が残ってしまうことがあります。 こんな時には、刺身に醤油をヒタヒタになる程かけ、よく絡ませ、その上にワサビと残ったつま(大根)を置き、冷蔵庫で保管します。 明くる日の朝食では、冷たい刺身のづけ(漬け)を暖かいご飯にのせ、刻んだ大葉ともみ海苔をパラパラとかければ、ハイ!づけ丼の出来上がりです。
◆袋物 買ってきた塩昆布や漬け物などの袋物を器に盛る際、袋に入っていたままの形を残さない。 よくほぐして、ふっくらと盛りつける。 こうすることで、何となく味に丸みが出るような気がして旨くなる。
◆味噌汁 味噌汁を作るとき、味噌を入れたらグラグラ煮立つ前に火を止める。
◆弁当のおかず 弁当のおかずにウインナーを入れるとき、油でベトベト焼かない。 さっと茹でて入れる。 それに、レンジでチーンの揚げ物ばかりでなく、肉じゃがなどの煮物や野菜を入れる。
◆野菜の切れ端 大根の皮や野菜の切れ端を、パッパパッパと捨てないこと。 勿体ないオバケが出る虞(おそれ)あり。 キンピラや炒め物にする。
◆インスタントラーメン インスタントのラーメンや焼きそばを作る時、野菜やきのこを炒めて乗せるか、麺といっしょに入れて作る。
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