■ スクラップブックから P授業の達人2020.5.29


『日本経済新聞』2019.5.20付の切り抜き、コラム「学びや発」には大いに感心させられた。
そして、世の中には素晴らしい先生=授業の達人がいたものだと、驚かされた。

腹立ったときに思わず口にする言葉、「コンチクショウ」の意味を、私たちはどれだけ深く理解していただろうか。
小説などを読めば「こん畜生」と書かれているので、相手を畜生呼ばわりしてその人格を貶(おとし)めているのだと解かる。
「この畜生野郎」が「こん畜生野郎」に変化し「こん畜生」に約(つづ)まっていった。

授業中に、「コンチクショウ」と叫んだ男子小学生を怒りつけるのではなく、その言葉の意味をクラス全員に考えさせ答を出させて、怒りで緊張に包まれた教室内の空気を和やかなものにもっていく。
これぞ授業の達人=名人といえよう。
まさに教え育てる=教育の真髄をみせてくれたといえよう。

こんな先生に教えられた子供たちは、一生その先生を忘れることなく、きっとまっすぐに成長していくことだろう。
先生=教職っていいもんだなあ・・・・・・と思いました。

なお、このコラムの末尾には(裕)と書かれているので、この裕氏が以前教師をしていて記者に転身したか、あるいは今も教師をしていて新聞社の求めに応じて書いたのか、いずれかだろうと推測している。

「学びや発」
子供の怒り
冷静に、いなす姿勢で
  裕

 「コンチクショウ!」。
6年生の国語の授業中、A男が突然大声を上げた。
ささいなことで近くの子になじられ、カチンときた様子。
机を倒さんばかりの勢いだ。
「やめなさい!」と大声で注意しようものならA男の怒りは爆発しかねない。
 そこで、黒板に大きく「コンチクショウ」と書いた。
ざわつく教室。
「あのさあ、コンチクショウってどういう意味かわかる人いるかな?」
と穏やかな口調で全員に投げかけた。
きょとんとした顔をする子供たち。
 しばらく待つと、B男が手を挙げた。
「コンはわからないけど、チクショウはけだもののことだと思います」
 「なるほど、ありがとう」と伝え、「チクショウ」の横に「畜生=けだもの」と書き足した。
「では、コンは何かな?」と次の質問。
一触即発の状態だったのがうそのように教室は静まり返った。
A男も真剣なまなざしでこちらを見ている。
 C子の手が挙がった。
「コンはたぶん『コノヤロウ』なんていうときの『コノ』がなまったんだと思います」
 私は「ううむ、すばらしい解釈だね」と応じ、「コノ〜ヤロウ」と書いた。
「そうか、コンチクショウは『このけだものやろう』っていう意味なんだね。
A君、B君、Cさんのおかげで一つ勉強できました。
それにしても『このけだものやろう』っていうのはものすごい言葉だねえ・・・・・・」
 さらに続いたやり取りは割愛するが、みんなで大笑いした後、A男も含めた全員が、何事もなかったかのように授業に取り組んでくれた。
 子供の怒りに怒りをもって応じてしまうと、火に油を注ぐことになる。
いなす姿勢が大切だが、教員は今、背負いきれないほど多くの課題とそれに伴うストレスを抱え、ちょっとしたことで短絡的に反応しがちだ。
 ずいぶん前の授業での一幕だが、慌しさの中で気持ちにゆとりがなくなると、思い出すようにしている。

2020.5.29




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