前回の「スクラップブックから」は、『日本経済新聞』土曜版「NIKKEIプラス1」からの切り抜き、「その違い わかりますか」というシリーズを紹介した。
ところが、面白い切抜きが次々と出てきて、1回では書ききれなくなってしまいました。 そこで今回は、「続・その違いわかりますか」として、前回に引き続き紹介することにしました。
面白いですから、ぜひ今回も読んでみてください。 なお、記事のポイントだけを書き写してあるのは、前回と同じです。
その違い わかりますか ライター 松田亜希子
F「ヒラメとカレイ」―目の位置の左右、実は例外も―
有名な判別フレーズに「左ヒラメに右カレイ」というのがある。 目が上になるように見たとき、頭が左向きになるのがヒラメ、右向きになるのがカレイだからだ。 ただしこれは、日本近海でとれるヒラメとカレイに限った定義。 しかも種類によっては逆になる例外もある。 ほかに見分ける方法はといえば、・・・ヒラメは口が大きく裂けて・・・とがった歯をもち、どう猛な顔だ。 一方、カレイはおちょぼ口で歯も小さく優しい顔。
G「もりそばとざるそば」―器・汁のコク・・・時代で変遷―
もともとそばは、汁につけて食べるものだった。 ところが江戸の元禄年間に、汁のかかった「ぶっかけそば」が流行。 これと区別するために、従来のつけそばを「もり」と呼ぶようになった。 ざるそばは、江戸中期・・・「伊勢屋」というそば屋が、竹ざるにそばを盛って出したのが始まり。 これが大いに話題になり、ざるそばという名が定着する。 当初、もりそばとの違いは器のみだったざるそばが・・・もりと区別するため、もみ海苔(のり)がかけられるようになった・・・。 さらに、もりそば用の汁にみりんを加えてコクを出したざる汁が使われるように。 今では、もりもざるもせいろに盛られることが多く、つけ汁も同じ、違いは海苔の有無だけという店が多い。
H「わびとさび」―質素ゆえの趣と古さゆえの静―
わび(侘び)とは、質素ゆえにかえって趣のあること。 とりわけ茶の湯の世界は、この美的感覚を重視。 簡素な茶室や茶わん、掛け軸が好まれるようになった。 さび(寂)は、時の経過によって古びたために生じる枯れた渋みのこと。 風雨にさらされ年月を経た石は、緑のコケをまとうようになる。 これを石の内部からにじみ出てくるものと見立て、そこにさびの本質があるとした・・・。 粗末で寂しいわび。 古びて静かなさび。 どちらも飾りけのないものに風情を見いだす、実に高度な美学である。
I「懐石料理と会席料理」―茶道から発祥か、酒宴からか―
懐石料理とは、本来、茶を喫する前の空腹を適度に満たす軽い食事・・・。 会席料理は、江戸時代の中ごろ、町に登場した料理屋が、懐石料理や本膳料理という当時のフォーマル料理をアレンジ。 堅苦しい作法をなくして、酒を楽しむために生み出した、いわば宴会料理だ。 一品ずつ順に供されるのは、懐石料理も会席料理も同じ。 大きな違いといえば、・・・茶の湯の懐石では、ごはんを3回食べ・・・一方の会席は酒宴の料理なので、ごはんは最後に出てくる・・・。
J「なおざりとおざなり」―何もしないか何かするか―
辞書を引くと、なおざりの意味は「いい加減にしておくさま」。 おざなりは「いい加減に物事をすませること」。 いい加減、適当というニュアンスは共通だ。 では何が違うかというと、なおざりがいい加減ゆえ何もしないのに対し、おざなりはいい加減とはいえ、一応は何らかのアクションを起すこと。 なおざりは、猶(なお=そのまま)と去り(さり=遠ざける=何もしないで放っておく)が合体したという一説がある・・・。 おざなりは、漢字で書くと「御座なり」。 座敷(宴会の席)で、その場だけの表面的な言動をするさまから来た。
K「ミステリーとサスペンス」―謎解きがメーンか 心理描写か―
本来の意味は、ミステリー=謎・神秘、サスペンス=気がかり・不安。 しかし小説やドラマでは混同されているのが現状だ。 ミステリーは推理作品と同義語でもある。 その一般的な定義は、犯罪の謎解きに重点が置かれていること。 江戸川乱歩はおもしろいミステリーの条件として@発端の不可解性A過去のサスペンスB結末の意外性―を挙げた。 つまりサスペンスはミステリーの一要素であるともいえる。 「ミステリーは知的プロセス、サスペンスは感情的プロセスを楽しむもので、両者はまったく違う」と言うのはサスペンスの神様″と呼ばれた映画監督アルフレッド・ヒッチコック。 サスペンスとは登場人物の心理的なスリル描写に重点を置いたもの。 読者や観客に犯人を先に明かすことが多いのもミステリーとの違いだ。
2020.5.21
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