今年も、年越しそばは信州蕎麦だ。 娘の会社の先輩が長野に住んでおり、毎年送ってくれるのだ。
蕎麦といえば、男が打つものというイメージがあるが、その先輩は女性である。 自家の畑で栽培したものを、天日干しし、十割で手打ちする。 そのすべてを、先輩が自分の手でやるというから驚く。
蕎麦打ちするときは、その日の気温や湿度に応じて水加減する、プロ顔負けの拘りというから凄い。 よくもまあ、こんなに細く蕎麦切りしたものだ、と見事な仕上がりに感心してしまう。 不味かろう筈がない。
大根とネギまで添えられている。 もちろん先輩が自分で作ったものだ。 その完璧な心配りがありがたい。
心尽くしの蕎麦だ。 最後の茹で″で失敗してはいけない。 緊張する。 大きな鍋にたっぷり湯を沸かし、2人前の蕎麦をパラパラと落す。 茹で過ぎは厳禁だ。 タイマーを睨みながら1分で火を止める。
流し台のシンクに大きめの湯呑を3個並べ、鍋から直接蕎麦湯を注ぐ。 残りの茹で汁を捨て、冷たい水を注ぎ、ふたたびその水を捨てる。 もう一度冷たい水をたっぷり入れ、慎重に蕎麦のヌメリを洗い落す。
そして、すのこを敷いた大きな皿に盛り付ける。 このとき注意すべきは、大きくつかんで盛らないことだ。 箸で一口分だけ取りやすくするために、絡まないように少しずつ盛っていくのだ。 2人前なので大きな山ができた。 最後にきざみ海苔を程よく載せる。
よおし、腹一杯食べるぞ。
最初はざる蕎麦で食べることにした。 市販の麺つゆを猪口(ちょこ)に半分ほど注ぎ、ワサビを溶かし刻んだネギを一つまみ入れる。 蕎麦に盛ったきざみ海苔も猪口に移す。
まず、蕎麦を一箸つまみ、つゆを浸けずに口に持っていく。 信州蕎麦独特の野性味のある香りがいい。 口に入れるとザラツクような食感がこれまた野性的でいい。 蕎麦のほのかな甘みが口一杯に拡がるのがいい。 さすがに信州蕎麦だ。 旨い。
次に、猪口のつゆに半分ほど浸し、勢いよくすする。 野性味の蕎麦がダシの効いたつゆと薬味にからんで、絶妙のハーモニーを醸し出す。 旨い。 大盛りの半分があっという間に胃袋にすっとんでいってしまった。 猪口に残ったつゆに蕎麦湯を入れて味わった。
さあ、次はおろし蕎麦だ。 たっぷりおろしておいた大根に、麺つゆを遠慮気味に足し、刻みネギと削り鰹を散らす。 本来なら器に入れた蕎麦に、この手順で盛っていくのだが、既に蕎麦はすのこに盛ってしまっている。 だからざる蕎麦のように、大根おろしのつゆに絡めて食べることにした。
越前おろし蕎麦ならぬ、越前と信州がコラボした信州おろし蕎麦だ。 とはいうものの大根もネギも信州だから、純然たる信州おろし蕎麦ということになる。 何だかややこしいことになってきた。 そんなことより、これも旨かった。 信州育ちの蕎麦が、信州育ちの大根とネギと肩組めば不味い筈がない。
最後に蕎麦湯2杯をいただき、手を合わせた。 「ごちそうさまでした」
今年も最後の日が穏やかに過ぎ去ろうとしている。
2025.12.31
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