このエッセイを、また3日間も連続でサボってしまった。 毎日続けるのは、なかなか難しいものだ。 新聞の四コマ漫画の作家は、休刊日以外は日曜祝日も休むことがない。 プロとはいえ凄いことだ。
24日の金曜日、書斎の机に向かったが、窓から気持ち良い太陽の陽射しが「外に出ろよ」と笑いかけてきた。 その誘惑に負け、10日前に仲間と「歩く会」で行った、富山県高岡市へ再度行こうと決めた。 そのときのエッセイで書いたように、予定を途中で切り上げて、「土蔵造りの町並み」と「千本格子の家並み」に行けなかったからだ。 それにもう一度、藤子不二雄Ⓐと藤子・F・不二雄が漫画家になる夢を語った、あの「二つ山」に行きたかった。 藤子の二人が座った二つ山に、無性に座りたくてしょうがなかったのだ。
今度は一人だ。 のんびりと3セクの電車を乗り継いで行くことにした。 ハピライン福井「芦原温泉駅」の発券機では、あいの風富山「高岡駅」の表示がなく、IR石川の「俱利伽羅駅」までしかない。 そこで乗車券売り場で訊ねると、その先は購入することができないので、乗り越して「高岡駅」で精算してくれとのことだ。 JRから各県ごとに3セク化したことで、不便になってしまった。 「芦原温泉駅」9時47分発に乗り、「金沢駅」でIR石川に乗り継ぎ、「高岡駅」には11時44分に着いた。
前回はうっかりと立ち寄るのを忘れた、「高岡駅観光案内所」に先ず顔を出した。 「高岡の町を歩きたいんだけど案内のチラシはありますか」 女性(30代後半?)が一人いたので尋ねると、親切に「歴史都市高岡 まち歩きマップ まわるん」を出してきて、丁寧に説明してくれた。 「お声がけいただきありがとうございました」 おまけに、お礼まで言われて恐縮してしまった。 なるほど、このマップは見やすく・詳しく・歩きやすくできている。 彼女が、私の次に訪れたインバウンド相手に、流暢な英語で応対しているのには驚いた。 プロ意識のなせる業(わざ)だと感心した次第である。 観光案内所はその地のフロントである。 高岡市は町のフロントにベストな彼女を擁し、万全といえよう。
駅中の食堂で大盛りカレーを食べ、エネルギー満タンにした。
一番に「高岡古城公園(高岡城跡)」の「二つ山」を目指した。 漫画では小さな山が二つ並んで描かれているが、現実はなだらかな盛り上がりがあるだけで、山というには無理がある。 藤子の二人が住んでいた頃は、二つの山のようになっていたのだろう。 周辺を丹念に何度も歩き回った。 悔いを残さないよう、眼に焼き付けるよう、にと見回し歩いた。 スマホのカメラであれもこれもとシャッターを切った。
二つ山の大きな木の根元に座り目を瞑ると、また前回の感動が蘇ってきた。 周りを見回しながら、藤子の二人もここに座ってこの風景を見たのだと思った。 そして手塚治虫のこと、漫画のこと、将来のことを語らい合ったのだ。 自分は今二人が座ったと同じ場所に座っている。 自分には高校生の頃、二つ山のようなお気に入りの場所はなかった。 そんなことを想いながら、この二つ山にいることの喜びに浸った。 時計を確認したら1時間が過ぎていた。
急いで「土蔵造りの町並み」に向かった。 この町並みは、国選定重要伝統的建造物群保存地区で、藤子たちの青春期を描いたNHKテレビ小説「まんが道」でも舞台になっている。 ここでは「赤レンガの旧銀行」が、想像をはるかに超えて大きく堂々として圧倒された。
「千本格子の家並み」も、国選定重要伝統的建造物群保存地区で、高岡鋳物発祥の地である。 石畳を歩いていると千本格子の家が立ち並び、ドラえもんの「どこでもドア」で100年前の世界に出たような気分になる。 「高岡市鋳物資料館」に入館してみたが、地元の有力者の銅像が窮屈に展示されており、肝心の鋳物資料館としては物足りないのが残念だった。 旧南部鋳造所キューポラと高い煙突は、絵になってなかなか良かった。
「高岡駅」15時03分の電車に乗り、「芦原温泉駅」17時22分着で帰った。 乗車券往復4,220円、お昼カレー630円、鋳物資料館240円。 ありがたいことに出費合計5,090円で、充実した一日を過ごせた。
その後、藤子不二雄の「まんが道」を読んだりして、高岡行きの余韻を楽しんでいる。
2025.10.28
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