「目の前にあることを一所懸命やることが大事だと思う」 俳優でミュージシャンでもある、六角精児の言葉である。
NHK/BS「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」の中で言っていたと思うのだが、自信がない。 なかなかいい言葉なので、このエッセイに書こうと思ったが、これだけではネタとして物足りない。 そこで本棚にある六角精児の著書、「三角でもなく 四角でもなく 六角精児」(2012.12.10講談社)と「少し金を貸してくれないか」(2014.3.25講談社)を読み直してみた。
六角精児は、ちょっと意外過ぎる経歴の人である。 1962年兵庫県生まれ、学習院大学中退である。 10歳年下だ。
居酒屋で焼酎レモンに酔って大暴れして、出入り禁止になった。 パチンコ・競輪・競馬・麻雀などギャンブルにのめり込み、渋谷の「サラ金ビル」の全部の店で借金していた。 サラ金から借金を繰り返していた約十年間、思い出すのは同類の人間の切羽詰まったどす黒い顔と、夜通しの勝負で負けた時に見上げた、まっ黄色な太陽である。 月の半分以上は極貧生活で、家賃には到底手が回らない。 夜は電気を点けずに月明かりで生活、ガスはずっと止められたまま、水道は部屋の外にあるバルブを閉められる。 付き合っていたYちゃんのアパートで、ヒモのような生活をしており、毎月七万円もらっていた。 四度結婚しており、今の妻とはギャンブルが原因で離婚し二度目の結婚である。
壮絶な人生を送ってきたのだ。 それにしても酷いもんだ。 そんな生活を続けてきたドシブイ根性は、いつどうやって身につけたのか。 テレビで見せる陽気な人間ざまからは想像ができない。
だが、しかし、そんな男の言葉だからこそ説得力がある。 「目の前にあることを一所懸命やることが大事だと思う」
目の前にある修羅場を、数えきれないほど乗り切ってきたからこそ、さりげなく言えるのだろう。 修羅場を乗り切ってからは、舞台に、TVドラマに、映画に、「六角精児バンド」にと、大活躍している。
それにしても、BS/TV「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」で披瀝する電車や鉄道の知識が半端でない。 なぜ鉄道好きになったのだろうか。 「六角精児バンド」として、ミュージシャンになったのはなぜだろうか。 その多才さに感心してしまう。 良くも悪くも「目の前にあることを一所懸命」やってきたからこそ、今の六角精児がある。
良くも悪くも「目の前にあること」から逃げないことが大事だと教えられた。
2025.9.16
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