■ 走り書きしたメモ −もう1枚−2025.9.3


「走り書きしたメモ」がもう1枚あった。
探し物をしていたら、応接セットのテーブルの上に積み上げてある資料の間から出て来たのだ。
次のように書かれている。

「男も女も 好きな想いを持つ相手ができれば その人のことを知りたいと思う。女は男の全てを知りたがる。男は女の今を知りたがる。」

なんだか意味深なメモだ。
いつ、なんで、これをメモしたかは不明だ。

実は過去にこれとよく似たことがあった。
ある地域の総合経済団体主催のセミナーで講師を務めたときのことである。
セミナーを終えて二、三日後、セミナーの担当者から電話があった。
「受講した女性が会いたいそうです。こちらでセッティングしていいですか」
セミナーや講演を終えた後、会場のロビーで受講者と話すことは何度かあった。
だが、こんなことは初めてなので驚いた。
でも、担当者は気心が知れているし、同席するということなので、了解した。

福井でもっとも繁華な飲み屋街の居酒屋で飲むことになった。
担当者2人と20代半ばの女性との4人だから、小上がりのテーブルを囲み、一緒に飲むにはちょうどいい。
担当者たちとは何度か飲んだことがあるので、気遣いはしないでいい。
ところが、女性のことは何も知らない。
受講生の中では若くて受講態度が熱心だったことが、印象に残っているだけだ。

彼女は紫風呂敷に包んだピザを持って来ていて、「どうぞ」と私に差し出した。
困ったなと思い、「みんなで食べようか」と言って包みを解こうとした。
すると担当者が、「彼女は先生にと持って来てくれたのですから」と手で遮(さえぎ)った。
彼女に対する担当者の気遣いに「男らしさ」を見ることになった。
無粋な自分には、この気遣いができない。

彼女は物怖じすることなく、食べ、飲み、かつ喋った。
そして言った。
「センセのこと もっと知りた〜い」
ここらでお開き″だなと思い、担当者に目配せした。
彼女は不満げな顔で呼んだタクシーに乗ったが、それでよかったと思っている。

肩の荷? を下ろした男3人は、次の店で盛り上がったのである。

確かに「男も女も 好きな想いを持つ相手ができれば その人のことを知りたいと思う」し、それが自然のことだろう。

ところが「女は男の全てを知りたがる」が、全てとはどこまでのことをいうのか。
その気持ちは分からないでもないが、全てを知ってどうするというのだ。
知らない方がいいことばかりではないだろうか。
そもそも、全てをさらす男などいる筈がないではないか。

「男は女の今を知りたがる」が、それでいいと自信を持って言える。
知りたい過去など履歴書程度のことで充分だ。
それよりも、今、彼女がどうなのかが大事である。
よいところだけを知りたいし、見ていたい。
そして、これからのことを考えたいし、夢みたい。

女はリアリストであるが故に男の全てを知りたがる・・・のだろうか。
男はロマンチストであるが故に女の今を知りたがる・・・のだろうか。

山田洋次監督の「男はつらいよ」第47作「拝啓 車寅次郎様」の中で、渥美清演ずる寅がマドンナ役のかたせ梨乃と話すシーンがある。
とてもいいので再現してみる。

「ねえ、もっと話して、寅さんのこと」
「だから話したじゃねえか、生まれも育ちも葛飾柴又、帝釈天で・・・」
「そんな履歴書みたいなことじゃなくて、物語り、日本中旅して歩いたんでしょう、楽しい話、悲しい物語り、すてきなラブロマンス・・・」
「ラブロマンスねえ、まあそういや大昔に二つ三つ、そんなことがあったかも知れないけど、風に吹かれているうちに、みんな忘れちまったよ」

2025.9.3




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