連日、県内各地のクマ出没の情報が流れてくる。 『福井新聞』には、「クマ出没情報」という専門のコーナーが設けられている。 一昨日10日、私の住むあわら市に出没したとの情報が掲載された。
【あわら市】 ▽花乃杜2丁目 9日午前5時10分ごろ、千束一里塚東側の山際に成獣《痕跡確認》 ▽高塚 8日午前7時ごろ、高塚区民館の北東約250bの住宅街に足跡 ▽青ノ木 9日午前11時半ごろ、集落から西約200bの県道沿い山際に足跡
新聞を読んだ時、これらの出没について驚きはしなかった。 その当日、高塚に住む姉が電話で詳しく話してくれたし、仲間はLINEで気をつけろと知らせてくれたからだ。 ところが、こうして活字になった情報を読むと、背筋が寒くなってくる。 実はこの3つの出没地は相互に隣接しており、私の自宅から10〜15分の近さなのだ。 しかも定番のウォーキングコースだから始末に悪い。 姉も仲間もそのことを知っているから、心配して連絡してくれたのだ。
6月3日のエッセイで「不可解な男女連れ」と題し、宮谷川でタニシを捕っている男女のことを書いたが、熊はその宮谷川を渡ってこれらの地を徘徊しているようなのだ。 熊はあちこちに出ているので、なるべく山際などは歩かないことにしていた。 したがって、車の多い道路があり電車が走る見通しの良い宮谷川の堤防は、まさか大丈夫と思った。 それが線路を越え、田んぼを走り、川を渡って、道路を歩き、姉の家の脇道に泥の足跡を残して行ったのだから血の気が引く。
私は宮谷川の上流にある宮谷で生まれ育ったので、子供の頃は山を遊び場として歩き回っていた。 熊と出くわしたことなどないし、山が怖いとは思ったこともない。 だから所構わず出没する熊情報に、今ひとつ実感がないのだ。
仲間との「歩く会」の下見(試歩)では、一人にも拘らず平気で豊原の廃村や今庄の湯尾峠を歩いたりしている。 よくもまあ無事だったと思う。 姉はそんな私を心配して手作りの熊鈴をくれたが、うっかりと忘れてばかりいる。
姉は宮谷川の堤防はやめて町の中を歩けと言う。 まさか日の日中に出ることはないだろうとは思うけど、油断は出来ない。 金津は小さな町だから歩くには窮屈で、解放感に乏しいのが難点だ。 だからといって、郊外はやはり熊が怖い。
熊の怖さについては、小説家の吉村昭と漫画家の矢口高雄が、多くの作品を残している。 吉村昭の作品には次のものがある。 「羆嵐(くまあらし)」新潮文庫 「羆(ひぐま)」新潮文庫 「熊撃ち」文春文庫・ちくま文庫 短編集「熊撃ち」にある「五話 幸太郎」を除き、どの作品も北海道が舞台で羆の凄まじさを書いている。 読んでいるうちに身震いするほどの怖さに襲われ、読後は茫然としてしまう。 淡々と描かれているだけに、その恐怖が身に迫ってくるのだ。 凄い筆力だと思う。
矢口高雄は秋田県の出身で、秋田マタギ(狩人)のことを描いている。 「マタギ」中央公論社 「マタギ列伝」汐文社 「又鬼の命」三冬社 どの作品も熊狩りのことが多くを占めており、「マタギ」は日本漫画家協会賞大賞を受賞している。
矢口高雄は、羆についても描いている。 「野生伝説 羆風(ひぐまかぜ)」ヤマケイ文庫 動物文学者戸川幸夫を原作として、北海道の開拓地で起こった凄惨極まりない羆被害の実話である。 羆が次々と女・子供を襲い、その肉を内蔵を食った。 それがリアルで力強い画力で表現されているのだから、思わず目を逸らしてしまう。 大変な傑作だと思う。
熊の出没は年々確実に増えてきている。 これだけ頻繁に、しかもすぐそこに来ているのだ。 人への危害も出てきている。 農林水産省の調査では、日本には約1万2千頭が生息しており、30年前に比べ2倍以上に増えているらしい。 なんとか駆除して、安心な日常を取り戻してくれないだろうか。
2025.6.12
|