人間は動物にない言葉をもっている。 その言葉をやりとりして、お互いの思いを伝えたり受けたりしている。 ところが、この言葉のやりとり、すなわち会話がまともにできないヒトがいるので困ることがある。
中小企業診断士として開業するとき、事務所名を「神尾経営相談所」とした。 企業経営へのアドバイスは重要な職務となるが、それは相手企業の経営状況を把握することから始まる。 経営状況の把握は、経営相談をいかに的確に行うかにかかっている。 したがって、経営相談は相談者の話を聞くことに重きをおかなければならない。 分かりやすくいえば、相談者に話させ自分は聞くことに徹するということだ。 なぜなら、答えは相談者の話の中に隠されているからだ。 それを整理し中小企業診断士の言葉に置き換えて、相談者に回答する。
一般的に中小企業診断士開業にあっては、事務所名を「○○経営研究所」とすることが多いようだ。 私も当初は経営研究所″としていたが、威圧感が気になってすぐに相談所″に変更した。 さて、何でこんなことを長々と書いたかというと、余りにも人の話を聞かないヒト″が多いからだ。
両親と兄を亡くした今、姉は唯一の親姉兄弟(おやきょうだい)になっている。 一人暮らしの姉は日頃から何かと気にかけてくれ、母の味を引き継いだ料理を持って来たり、繕い物をしてくれたりする。 姉がいてくれることで、どんなに心に安らぎを覚えることか。 ありがたいことだと感謝している。 そんな姉が人の話を聞かないヒト″なのである。
人間は喜怒哀楽の生きものだ。 嬉しいこと、腹立たしいこと、悲しいこと、楽しいことがあると、人に話し聞いてもらうことで、嬉しさ楽しさは倍増するし、怒り悲しみは半減する。 そんな気持ちを聞いて欲しいがために、何度姉の家に行ったことだろう。
姉は話を聞くどころか、自分のことを喋りまくる。 こちらが実はこんなことが″と言い出すと、そのこんな″を捉えて自分に置き換えた話を延々と続けて行く。 いつものことだが時計を確認していると、姉は2時間の内1時間45分は話している。 話が話を呼び夢中になって止められなくなるのだ。 こうなってくると始末に悪い。 こちらから口を挿むことができなくなってしまう。 ただひたすら話が終るのを待つだけだ。 終わらなければ、気分を害しないようにタイミングを見計らって、思い切って席を立つことにしている。 帰りの車の中で、あ〜あ〜今日も聞いてもらえなかった″と、煮え切らないジャガイモを食べたような気がして諦めることになる。
人の話を聞かないヒト″だけど、姉だから許せるところがある。 ほかにも人の話を聞かないヒト″が何人もいたが、こちらから付き合いを止めさせていただいた。 本人はそのことを意識していないのだから、遠ざかるしかない。 そして人の話を聞くヒト″になるよう、自分に言い聞かせている。
(注)言葉は人間ばかりか動物も持っているという研究がある。 犬を飼っていたとき、動物にも喜怒哀楽があると思ったものである。
2025.7.10
|