■ 武田鉄矢 スゴイぞ! 母息子(おやこ)2025.12.5


蔵書は作家別とテーマ別に整理している。
ただし、菊版(縦220o 横150o)より大きな版型のものは、別のグループとして整理する。

作家別としては、吉村昭、藤沢周平、山本周五郎、池波正太郎、松本清張といったところが多い。
こうして並べてみると、時代劇作家、ベストセラー作家ばかりである。
好きな作家Best1は吉村昭で、全ての作品が揃っている。

テーマ別としては、部落問題、サンカ、明智光秀、太宰治、野口英世などである。
滋賀県に住むようになった竹馬の友T君から、部落差別の話を聞いてショックを受け、関連の本を次から次へと読むようになった。
住井すゑが部落差別を書いた小説「橋のない川」は、今井正と東陽一監督により2度映画化されており、そのDVDも揃えている。

さて、いま蔵書の中から読み進めている本は、武田鉄矢の「ふられ虫の唄」である。

武田鉄矢と云えば、中牟田俊男と千葉和臣とのフォークグループ海援隊で、「母に捧げるバラード」と「贈る言葉」がミリオンセラーを達成している。
山田洋次監督の映画「幸福の黄色いハンカチ」では助演男優賞に輝き、TBSのTVドラマ「3年B組金八先生」が人気を博した。
ラジオでは「今朝の三枚おろし」で、毎週一つのテーマを追いかけ、興味深く為になる話を聴かせてくれている。
最近では、TVで「昭和は輝いていた」の司会や、ワイドショーのコメンティターまで勤めている。
まあ、典型的なマルチタレントなのである。

「ふられ虫の唄」は、海援隊が世に出るまでのことを、面白おかしく書いている。
目次を確認すれば、その全体像が見えてくる。

 やったぜ、おふくろ
 ぼくは劣等生であった
 ぼくの柔道一直線
 ぼくのなかの坂本龍馬
 フォークとの出会い
 恋に狂いて恋狂い
 第二の海援隊の出発
 教育実習生となって
 いざ、花の都東京へ
 ああ、結婚
 唄い続けること、こだわること
 故郷と若者と寅さんと
 青春から人生へ

この中で、何度読んでも噴き出してしまうところがある。

   ―――――――――――――――
武田煙草店のまわりの、酒屋仏壇屋のおばさんたちが、忘年会と称して大酒宴を、わが家の八畳間でやる。
これが実に壮烈、壮絶。

宴もたけなわとなってくると、このおばさんたちの眼に一種の狂気が浮かんでくる。
大工さんところのおばさんが、小柄な身体をくねらせて、ストリップをはじめた。
それからはメチャクチャ。
男泣かせの秘戯を披露すると宴席はけたたましい笑い声と、負けてなるかの野次、罵声。

そしてついに、わが母の、宴席最大の舞踊であるタワシ踊りが登場するのです。
これはタワシを、タワシの如きものが存在する女性のある部分へヒモで固定して、踊り狂うのです。
さらに宴席に連なる十数人のおばさん連が、
ヘンなところに毛がはえて〜
とくりかえし、はやしたてて笑いころげるのです。

「あの人が、真にぼくの母なのだろうか!」

母さんがよなべをして手袋編んでくれた
おふくろさんよおふくろさん 空を見上げりゃ
たわむれに母を背負ひて そのあまりの軽きに泣きて三歩あゆまず

日本の母をたたえる美しい歌は数々あるが・・・・・・
まぶたの母は、「ヘンなところに毛がはえて」と、きょうも元気にタワシを腰にゆわえつけ、ダイナミックに踊り狂っております。
   ―――――――――――――――

これを読んで何度腹を抱えて笑ってしまったことか。
涙と鼻水が出て、ティッシュの山ができてしまった。

それにしても、ここまで見事にわが母を曝(さら)け出すことができる、武田鉄矢という男は凄い。
それを許す武田の母は、武田以上に凄い。
スゴイ! 母息子(おやこ)である。

2025.12.5




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