■ 初 恋2025.12.21


誰にも初恋があった筈だ。
初恋と簡単に口にするが、そもそも「初恋」の定義はどうなっているのだろう。
辞書を開いてみた。

「三省堂国語辞典第四版」
はじめての恋。はつごい。

「岩波書店広辞苑第三版」
はじめての恋。

これでは字面通りで、辞書としての役目を果たしていない。
三省堂にも岩波書店にも、これらの編集に当たった担当者の中には、初恋をした人が誰もいなかったようだ。

そこで「恋」について調べてみた。

「三省堂国語辞典第四版」
[男女の間で]好きで、あいたい、いっしょになりたい、いつまでもそばにいたいと思う強い気持ち(を持つこと)。
恋愛。

「岩波書店広辞苑第三版」
一緒に生活できない人や亡くなった人に強くひかれて、切なく思うこと。
また、そのこころ。
特に男女間の思慕の情。
恋慕。
恋愛。

これらを読んでいると、三省堂のものが素直な書き方をしている。
「好きで、あいたい、いっしょになりたい、いつまでもそばにいたい」
その通りであるが、何だか物足りない。
どちらの辞書も最後に「恋愛」を上げているので、さらに調べてみた。

「三省堂国語辞典第四版」
男女の間・の恋いしたう愛情(に恋いしたう愛情がはたらくこと)。
恋。

「岩波書店広辞苑第三版」
男女間の恋い慕う愛情。
こい。

ここまで読んでみて、ズバリ直球ど真ん中、ではないものの、概ね次のようだと理解した。
「初恋とは、初めて男は女を、女は男を好きになり、あいたい、いつまでもそばにいたい、いっしょになりたい、と強く思う気持ちを持つこと」

ところがやはり、スッキリとしない。
そこで、2020.5.4に書いたエッセイを思い出した。
「なんでもbest5・つい口ずさむ歌」だ。

@まだあげ初めし前髪の〜
『初恋』
【作詞】島崎藤村【作曲】若松甲、犬養孝、他

 まだあげ初めし前髪の
 林檎のもとに見えしとき
 前にさしたる花櫛の
 花ある君と思ひけり

 やさしく白き手をのべて
 林檎をわれにあたへしは
 薄紅の秋の実に
 人こひ初めしはじめなり

 わがこゝろなきためいきの
 その髪の毛にかゝるとき
 たのしき恋の盃を
 君が情に酌みしかな

 林檎畑の樹の下に
 おのづからなる細道は
 誰が踏みそめしかたみぞと
 問ひたまふこそこひしけれ

A砂山の砂に 砂に腹這い〜
『初恋』
【作詞】石川啄木【作曲】越谷達之助

 砂山の砂に 砂に腹這い
 初恋のいたみを
 遠くおもい出ずる日

 初恋の いたみを 
 遠く遠く あーーあーー
 おもい出ずる日

 砂山の砂に 砂に腹這い
 初恋のいたみを
 遠くおもい出ずる日

B放課後の校庭を 走る君がいた〜
『初恋』
【作詞】村下孝蔵【作曲】村下孝蔵【歌唱】村下孝蔵

 五月雨は緑色
 悲しくさせたよ一人の午後は
 恋をして淋しくて
 届かぬに想いを暖めていた
 好きだよと言えずに 初恋は
 ふりこ細工の心
 放課後の校庭を 走る君がいた
 遠くで僕はいつでも君を探してた
 浅い夢だから 胸をはなれない

 夕ばえはあんず色
 帰り道一人口笛吹いて
 名前さえ呼べなくて
 とらわれた心見つめていたよ
 好きだよと言えずに 初恋は
 ふりこ細工の心
 風に舞った花びらが 水面を乱すように
 愛という字書いてみては
 ふるえてたあの頃
 浅い夢だから 胸をはなれない

 放課後の校庭を 走る君がいた
 遠くで僕はいつでも君を探してた
 浅い夢だから 胸をはなれない
 胸をはなれない 胸をはなれない
 今もはなれない 今もはなれない

best5の内、1位から3位を『初恋』が独占している。
これらの歌を口ずさんでいると、理屈抜きで「初恋とはなにか」を、頭に優しく語りかけてくる。

自分とって初恋はいつだったろう。

小学生の夏休みときだった。
村に東京から帰省した人が、可愛い女の子を連れてきた。
当時、村の子供たちはそんな子を温かく迎え、一緒に遊んでやったものだ。
その子を好きになったのだ。
東京に帰ってしまった後、手紙を出したのを覚えている。
住所は本人から訊いたのかどうか、記憶にない。
返事が来たので心ときめいた。
初恋というには、余りにも淡すぎる思い出だ。

これも小学生のときだった。
5、6年生になると、1、2年生の給食の配膳をさせられた。
そのクラスに、知的で品があって背が高い女の子がいた。
目が奪われてしまった。
ひと言も話しかけたことはない。
可愛いというより、素敵な子だと思ったのを忘れない。
そのときのシーンを頭の隅に大切にしまってきた。
知的で品があって背が高い女の子、いまでもそんな女性に魅かれる。

高校3年のときだった。
国鉄(JR)とスク−ルバスで通学していたが、色白でスラッとした同級生のその子も同じだった。
クラスは一緒になったことはないし、国鉄でもバスでも顔を合わせたという記憶がない。
遠くから眺めていただけだった。

当時、加山雄三の映画「若大将シリーズ」が面白く、映画館に通ったものだ。
その中で、マドンナを演じていた酒井和歌子の大ファンだった。
同級生のその子に、酒井和歌子を重ねてしまったものだから、もういけない。
酒井和歌子のブロマイドは買うし、「明星」「平凡」など月間の芸能雑誌から、彼女の写真を切り抜いたものである。
彼女の絵も描いた。

そこまでで止めておけばよかったのに、燃え上がる炎を消し止めることが出来ず、その子の家を訪ねてしまったのだ。
お母さんがお茶を出してくれたが、コーヒーだったか日本茶だったか覚えていない。
何を喋ったかも全く覚えていない。
モジモジするだけで、まともに話すこともできず、終わってしまった。
それでも、手紙か年賀状かを出したこともあった。
もちろん、返事はこなかった。

恋するということは無様なものだ。

2025.12.21




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