土曜日の昼下がり、自宅でくつろいでいると、突然電話が鳴る。 「はい、大谷です」と出るべきところ、「はい」とだけ応える。 うさん臭い電話が多いので、警戒してしまうのである。
「大谷さんのお宅ですか」と、相手はこちらを確認してくる。 冗談じゃない、こちらを確認する前に、自分が何者かを明らかにすべきだろう。 「何の何某だけど」と名乗ってから、確認してくるべきだろう。 電話でうさん臭い商売をしようとする、悪徳業者が多い今の時代にあって、まず自分を名乗るのは常識である。
「・・・・・・」黙っていると、「大谷次郎さんはいますか」と聞いてくる。 私を特定してくるところからすると、これまでに何らかの接触があった相手のようである。
それにしたって、自分が何者であるかを先に名乗るべきだ。 今の時代にあっては、それがマナーであり、常識だ。 マナーのない相手には、こちらがだれかは、先には名乗らないことにしている。 それで腹立てるなら、それこそ非常識である。
「大谷次郎がいるかだと」、冗談じゃない。 お前はいったい何者だ、自分がだれだかを先に名乗れ。 「居ませんけど」と返答したら、不機嫌そうな口調で「それじゃあ携帯の方に電話してみます」と言って、電話を切った。
こちらの携帯番号を知っているということは、これまでに接触のあった誰かだろう。 そういえば、聞いたことのあるような声だ。 なにか急用か、大事な用事だったのかな。 相手は、私のことを悪く思っていないだろうか。 ちょっと不安になってきた。
その後、携帯の呼出音が鳴ることはなかった。 なんだか、気持ちが落ち着かない。 ガードを堅くすることで、かえって自分を不利にしてしまう。 いったい、どうすればいいんだ。
一部の悪徳な奴のおかげで、善良な市民がギクシャクした人間関係を強いられてしまう。 電話ばかりでない。 ATMの振込みにしたって、金額に制限が設けられ、5時以降や土日は現金での振り込みが出来なくなってしまった。
ITのおかげで便利になったはずが、不便になってしまった。 金融機関の窓口では、「本人確認」のためにと、免許証や保険証の呈示を要求される。 金融機関ばかりでない、役所でもどこでもそうだ。
姪っこが郵便局に勤めている。 「叔父さんが窓口で金を引き出そうとしたら、本人確認だといって免許証を要求してコピーするのかい」 彼女に聞いてみた。 「だって、規則でそうなっているんやから、仕方ないもん」 そのトンチンカンさに、何の疑問も持たなくなってしまっていることが、空恐ろしい。
2025.1.6
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